しょぼくれライフ

バイク趣味のしょぼくれた老ライダーです!高齢者の立場からの各種バイク批評のブログです。

ヴェルシス250ファイナル(!?)登場

 カワサキのヴェルシス250(VERSYS-X 250TOURER)が2年ぶりにカラーリング変更しました。

 カワサキ車の定番キャンディライムグリーン&メタリックフラットスパークブラック(緑&黒)に加えてメタリックオーシャンブルー&パールロボティックホワイト(青&白)です。

 ただ、新色の展開だけとは言え、Zやニンジャ、Wという人気シリーズと比べるとどこかカワサキの消極的な姿勢が目立ちます。2月1日発売なのに中旬を過ぎてようやくプラザ店にカタログが届きました。まずもって発売から5年間、カラー以外に何も手を加えていません。販売面で成功したとはいえないモデルなのに、こんな事があるのでしょうか?そこで、このモデルの誕生からの経緯を振り返ってみたいと思います。

 2017年に軽二輪初のアドベンチャーとして注目されました。大型が居並ぶアドベンチャー部門に国産ブランドが初めて送り出した意欲作で、発売当初は完売続きのヒット作でした。

 ところが、直後に中国製で格安のスズキVストローム250が出ると、あっという間に販売面では後塵を拝してきました。

 
 GSR250の外観だけをアドベンチャー化したVストと異なり、フレームやサスペンションなどを専用設計した真面目な造りは、多くのライダーの共感を呼んだと思います。
 ただコンセプトの詰めが甘く、ツーリングバイクを志向しながらシートが硬いし、チューブタイヤであったり、オフ車風にフロントトラベルを長く取っていますが、航続距離を確保しようと17リットル大容量タンクを搭載したため重心が高くなります。このため低速時の不安定さから立ちゴケ不安がつきまとい、車重がVストより11kgも軽いのに、満タン時の取り回しには大型車並みの慎重さを要するというハンディが生じました。
 アドベンチャーにとって最も大切な積載性についても稚拙でした。

 ヴェルシスはパニアケースをボルト締めで装着する不便さのみならず、両パニア装着時は肝心のトップケースが耐荷重オーバーで使用不可となります。つまりパニアを使えばトップケースは使えず、トップケースを使えばパニアは使えないのです。これはメーカー推奨内の使用基準ですから、まれにフルパニアのオーナーも見かけますが、何かあったら自己責任という事になります。

 対してVストはこの写真のようにワンタッチでパニアを脱着でき、トップケースを含めフルパニアが可能なので、積載性の面でもVストが有利でした。

 さらにエンジン自体が、熟成されてはいても1985年開発の古いエンジンを用いたため、ロングストロークエンジンで低燃費のVストに比べ燃費が悪く、エコ重視の昨今では不利になります。



 それでもこのヴェルシスはスリッパークラッチを他社に先駆けて採用してライダーの負担を減らしています。

 前輪19インチ採用で走破性能や旋回能力の高さを実現しています。

 高回転型ならではのレスポンスの良いエンジンフィールで高速道路も快適に走行できます。

 カウル内の排熱対策ヒートマネージメント、よく考えられた装備で、夏場の渋滞時にはライダーを排熱から守ります。

 このようにカワサキらしいポリシーやテクノロジーが随所に込められた優れたバイクです。
 それなのにどうしてもこのモデルは、素人目にも明らかなチグハグ感が拭えません。市場投入を急ぐあまり、開発段階のまま性急な販売に踏み切ってしまったからでしょうか?あるいは

 かつてのデュアルパーパス「アネーロ」(1991年)へのオマージュを意識して中途半端なコンセプトに陥ったのでしょうか?アネーロの型式はLE250Aでヴェルシスは2BK-LE250D、明らかにヴェルシスはアネーロの後継機として位置付けられ、アドベンチャー化すべく開発されています。
 アネーロの不評原因だった航続距離の短さ等を克服しようとしましたが、アネーロ同様オンオフ両用をめざしながら、250ccなのにミドルクラスの車格を持たせたのが今回のヴェルシスで、結果的に「二兎を追う者は一兎をも得ず」に繋がったのです。
それに対してホンダは

 AX1(1987年)の復活ではなく、CRF250rallyというオフロード車CRF250Lの派生アドベンチャーとして成功、スズキのVストロームはやはりジェベル250(1992年)復活ではなくGSRというオンロード車の派生アドベンチャーとして成功させたわけですが、カワサキは前二者の中間を目指すアプローチでした。日本の市場では残念ながら十分には理解されませんでしたが、私はカワサキのこのオンオフ融合をめざす正攻法で独創的な姿勢を高く評価したいと思います。

 さて、販売低迷後もヴェルシス250の迷走は続きます。当初、スタンダードとツアラー(フル装備)の2本立てでしたが、発売から2年後(2019年)スタンダードが廃止されました。

 純正パニアで張り出しの大きいツアラーのみになったのですが、250には見えない大きさと充実装備、それはそれで魅力はあります。

 しかし、VストABSとの価格差が10万円。純正パニア・エンジンガード・スリッパークラッチの装備代と思えば、けっして割高なモデルとは言えません。またツアラーとスタンダードの価格差は5万円、スタンダードにツアラーの装備をオプションで装着すれば工賃を含めて12万円相当ですから、スタンダードを選ぶ理由はないとの見方もありますが、購入後にパニアを外して使わざるをえない場合は、やはり割高感が際立ちます。
 パニアを装着したままなら狭小な日本の住宅事情や駐輪場では置き場に困ります。さらにセンタースタンド等による重量増で走りがやや鈍るし、エンジンガードは転び方によってはフレームが歪む可能性があります。250ccのバイクは日常使いの軽快さが求められますが、フル装備のヴェルシスでは乗り降りすら不便極まりないのです。
 このようにスタンダードを廃止した事はメーカー自らユーザーの合理的な選択肢を奪い、敬遠されやすくした車種整理でした。

 カワサキマーケティングがまるで匙を投げたかのような印象を与えたまま、昨年は何のアナウンスもなかったので、いよいよ生産終了かと思いきや、突如のカラーリング変更で2022年モデルが出てきたのです。


 さて、当記事の本題に戻ります。定番のライムグリーン&メタリックブラック(緑&黒)はカワサキらしい精悍さです。そして、初めてラインナップされたメタリックオーシャンブルー&パールロボティックホワイト(青&白)、この配色はとりわけ鮮烈で、私も大いに興味を持ちまして、さっそく実車のあるプラザ店に行ってみました。


 実車をいざ見てみると、既存車種なのにまるで別物の新型に見えるハイセンスなカラーリングに驚きました。「色白は七難隠す」の喩え通り、いろんな問題点全てをあえて許容したくなるほどのインパクトがありました。日本では黒やグレーといった渋い色が人気ですから、このアジア・欧米向けの鮮やかなカラーが日本に入って来るのは極めて珍しい事だと思います。
 メタリックオーシャンブルーは2021年モデルのW800と同じカラーで日本人には染み入るような「藍色」です。ただ単に青を配色するのではなく、深い味わいが感じられるこの「藍色」に、Zシリーズでもよく採用されている瑞々しいパールロボティックホワイトが組み合わさり、「刺さる」ような美しさを醸し出しています。この絶妙なカラーリングに私は一瞬で魅了されてしまいました!


 正面もなかなかの面構え。フロントフェンダーまで私好みのブルーで心憎いほどお洒落です。
惜しむらくは、せめてヘッドライトだけはLEDに変更しておけなかったでしょうか。


 青いビッグタンクを空力特性に裏打ちされた白のカウルがガード、ボリューム感を増したタンク周りは、圧倒的な迫力を生んでいます。


 エンジンガードは転倒対策の安心感もさることながら、ボディを引き立ててアドベンチャーらしさを強調する効果があります。


 使い勝手は今一つでも、さすがに純正パニアはよくマッチしていますし、転倒時の緩衝機能もはたすようです。またヴェルシスは重心が高いので、荷物の横積みパニアは操縦安定性の確保のためにも必要な安全策です。


 日本車離れしたカラーリングで熟成されたヴェルシス250なんですが、排ガス規制EURO5に適応することはないとプラザで聞きました。その情報が正しければ、おそらく国内販売は今秋終了せざるをえないので、今回の2022年モデルは事実上のファイナルになると私は思います。長らく日本には導入しなかったヴェルシス650、正真正銘のミドルクラスの発売が250と入れ替わるように10月なのは偶然ではないと思います。250のフルモデルチェンジの可能性はゼロではありませんが、カワサキは電動化を急ピッチで進めており、利幅の薄い日本の軽二輪市場に、ブームが一巡したアドベンチャーの新型を投入する余裕があるのでしょうか。これは他社も同様です。 

 フィナーレを飾るに相応しい美しいカラーを与えられたヴェルシス250。日本での販売実績は今一つでも、250cc初の国産アドベンチャーとして登場したパイオニアでしたから、この短命モデルに有終の美を飾るカラーリングに心からエールを送りたいと思います。