しょぼくれライフ

バイク趣味のしょぼくれた老ライダーです!高齢者の立場からの各種バイク批評のブログです。

トランザルプは出たけれど

ホンダの新型ミドルアドベンチャー トランザルプ(XL750)は5月25日発売ですが、早くもドリーム店には入荷しています。そこで興味津々、私もさっそく見に行きました。

ショールームにドーンと置かれた実車はなかなかの迫力、配色も美しく久々に心躍る新型車です。

シートカラーが似合うし、頑丈なリアキャアが頼もしいです。

正面から見ると、400Xと同系統の印象を受けます。アフリカツインの弟分というよりも400Xの兄貴分、750Xでしょうか。

スキッドプレートが標準装備されていません。純正オプションだと10万円かかり高くつきます。

いかにも今風のメーターパネル。多機能過ぎて高齢者には使いづらいかもしれません。

LEDのヘッドライトが印象的ですが、テネレのようにアップフェンダーは装着できないそうです。

ミドルアドベンチャーのトランザルプは早くから情報誌でスクープされていて、巨大で高額なアフリカツインに躊躇する購買層には期待の星でした。すでにヤマハからは同一カテゴリーで前衛的なスタイルのテネレ700が2020年にデビューしていましたから、対抗馬のトランザルプもきっと斬新なスタイルとDCTを携えて登場するだろうと私は思っていたのですが、予想は全く外れてDCTは搭載せず、スタイルも1987年の初代トランザルプを踏襲した外観でした。

しかし、中身はさすが現代のアルプスローダー、ハイテク技術が散りばめられています。以下、メーカーHPより

アシスト&スリッパークラッチ

 

 

 

その他スマートフォンとの連携機能など申し分のない充実ぶりです。

ここまで魅力的なミドルアドベンチャーならマーケットはトランザルプの独壇場かというとそうはいきません。国内メーカーのスズキがやはり満を持してライバルを登場させていました。Vストローム800DE、このバイクも野心的なスタイルに、技術の粋を凝らした意欲作でした。

今やVストシリーズはスズキの看板車種であり、並々ならぬ力の入れようです。そこで両者を比較してみました。

外観は対称的でも双方ともによく似た構成です。ことにVストがVツインではなく並立になったのがVストファンには意外だったと思います。

私は店舗で両方に跨がりましたが、ローダウンしなければ不安になるシート高でした。なお、Vスト800DEがハイオク仕様なのは日本のユーザーへの配慮が足りませんし、トランザルプも日本の排気量基準を平気で4cc無視している点で疑問が残ります。フェリー料金等の不利益を上回るメリットがあるのでしょうか?

ヤマハのテネレ700、このバイクにも跨がった事がありますが、シート高875cmないしローダウン855cm。しかもアシスト&スリッパークラッチも採用せず、中高年は眼中にない日本投入でした。かつて名車DT1で日本のオフロード市場を開拓したヤマハなればこそ、オフロード性能は抜群のミドルアドベンチャーではありますが、人気の高い250ccのセローもWRも打ち捨てて、700ccというビッグオフロードしか出さないのは理解に苦しみます。

こうしてみると、オンロードでありながらオフ車仕様のVスト650XT、現行モデルは6年も前から出ていましたが、実は無視できない良くできたバイクだという事が最近分かってきました。

この2台のデータも並べてみます。

明らかにVスト650XTは車体が重く最低地上高も低く、ガレ場には入れそうにない構成です。

トランザルプ・Vスト800DEそしてテネレ700は本格的なオフロード志向のミドルアドベンチャーであって、Vスト650XTをここで比較するのはカテゴリー違いなのかもしれません。

しかし、オフロード走破性能を前面に打ち出す前輪21インチの前三者は、はたしてどれだけの日本人が日本で乗りこなせるのでしょうか?これら車重200kgを超える重いバイクでガレ場まで繰り出せる方はよほどのライダーですし、ロングツーリング主体で使おうとするなら、不相応な面が目立ちます。例えばチューブタイヤ。これだけの重量がかかったバイクがパンクすれば旅先ではどうしようもありません。私はやはりチューブレスの方が安心してツーリングできます。

オンロードメインゆえ前輪19インチであってもVスト650XTは、一見がたいは大きくても、高速道路主体のロングツーリングには、最適なツーリングバイクと評価されているバイクです。タイヤはチューブレスで安心、スポークホイールで未舗装路での振動吸収に優れ、しかも前三者よりも約30万円安い設定でありながら、純正オプションをほぼ不要とする充実装備です。バイク価格高騰の昨今ではとても良心的な価格を維持しています。

私は高齢者であり、このブログでも低排気量車中心に考察してきましたので、アフリカツイン等の大型には憧れはしますが、購入対象にはできません。

ではミドルクラスなら手が出せるかと言われたら、やはり自信がありません。高齢者なら年々クラッチ操作が苦手になりますから、期待したトランザルプがDCTを採用しなかったのはとても残念でした。その点、Vスト650XTはDCTはおろかアシスト&スリッパークラッチすらありませんが、ローRPMアシスト機能が搭載されています。この機能は渋滞時にローに入れたまま超低速でもエンストしない機能で、長い渋滞でのライダーの負担を大幅に軽減してくれますし、また立ちゴケ・Uターンゴケの防止にも役立ちます。2016年にSV650以来採用の機能ですが、恥ずかしながら私は最近までこの機能の秀逸さを知りませんでした。

アドベンチャーブームの草分けメーカーらしい的確な構成で、日本人が日本で乗るなら現実的で合理的なバイクであると、私は今回認識を新たにした次第です。スズキはエントリークラスの250ccではツーリング用に2気筒車、オフロード寄りに単気筒車と2車種用意するほどアドベンチャーに力点を置いています。

そしてスズキは貴重なVツインエンジンを国産メーカーでは唯一残していて、そのエンジンを搭載したこの650を排ガス規制Euro5に適合して販売延長しています。

デザインを変えない販売延長でしたから、おそらく次回の新排ガス基準への適応でモデルチェンジするか、さもなくば生産終了するのかなとも思います。バイク誌各誌の記事では後者の可能性が高そうです。Vツインエンジンはパラツインよりもコストもかかり、ましてやスズキのVツインエンジンは開発から20年以上経っており、厳しいユーロ6には対応できないとの見方が一般的だからです。

であれば、国産最後の傑作Vツインエンジンを搭載し、日本での最も合理的なミドルアドベンチャーは、最新3台よりも一番古くて地味なVスト650XTであり、今なら100万円という廉価。2017年発売時の95万円からわずか5万円のアップに留っています。

待望のトランザルプは出たけれど、シート高や実用性を考えると、この新型車にふさわしいライダーは限られているのだと私は思いました。国産メーカーが鳴り物入りで送り出した新型ミドルアドベンチャー3台でしたが、どこか欧米人向けのバイクを強引に日本マーケットに持ったきたかのような違和感が拭えません。