しょぼくれライフ

バイク趣味のしょぼくれた老ライダーです!高齢者の立場からの各種バイク批評のブログです。

Vストローム650ファイナル

Vストロームは今やスズキの看板車種、メーカーの広報では世界最多のラインナップにまで成長しています。そのシリーズでもっとも早く投入され、日本にアドベンチャーブームを起こしたのがこの650でした。その650も発売から11年が経ち、おそらくファイナルと思われるカラーリング変更が、2024年2月に実施されました。

赤字続きだった2輪スズキが輸出車種たったVストロームの国内販売に踏み切ったのは2013年。

ヨーロッパで培ったアドベンチャーカテゴリーを日本市場にもたらしました。この記念すべきVストこそVツインエンジンの650でした。それまでのデュアルパーパスよりもオンロード走行や長い航続距離を重視したツーリングバイクとして注目され、その後ヨーロッパでの需要を満たすため1000(その後1050)、

中国需要のためのパラツインエンジンのVスト250を2017年日本にも投入、初の軽二輪アドベンチャーとして大ヒットとなってスズキ二輪の黒字化に貢献しました。

さらにインドで250単気筒油冷エンジンのSX登場、日本にも投入され、同一排気量2機種併売となり、

一昨年からはパラツイン800が投入され一大ラインナップになりました。

スズキはかつてオフ車としてハスラージェベル・DRZという名車を社史に刻んできたメーカーですが、このVストシリーズは明らかにその伝統を現代に繋ぐ役割を果たしてきたと思います。赤字時代に車種を大幅に削ってきたスズキが、このシリーズにだけは異常なまでに傾注してきたのは、開発陣にスズキのオフ車部門出身者が多かったからなのかもしれません。

しかし、マーケット重視ならホンダの大ヒット車GB350

レブル250

カワサキエリミネーター400

こういうネオクラシックやクルーザーにも対応すべきでしたが、全く対応しませんし、その気配すらありません。近い将来出るとしても、すでにそのブームは終焉しているかもしれません。的確なマーケティングが欠落しているかのようなスズキが全力投入するアドベンチャーカテゴリーもすでにブームのピークを過ぎている可能性があります。ホンダはフラッグシップのアフリカツインには見切りを付けたかのようにラインナップ縮小を行っています。ヤマハのテネレ700も日本市場を意識していませんから、いつ販売終了してもおかしくありません。カワサキのヴェルシスもやはり短期の販売期間しか想定していません。

年々厳しくなる排ガス規制で2026年11月からのEuro5+にスズキの既存Vツインエンジンとパラツイン250は対応しないとの見方が一般的ですから、あと約3年でVストシリーズは800と250sxのみとなります。しかも800は燃料がハイオク指定、足付きも日本人を想定していませんし、SXも足付き不安があり、果たして今後もVストシリーズがスズキの屋台骨足りうるか疑問です。

アドベンチャーブームを支えたのはクラッチ操作が年々苦手になってくる中高年ユーザーかと思いますが、国産4大メーカーで唯一クラッチレバーの負担軽減に消極的なスズキとは対照的に、DCTでその需要に応えたホンダはさらにEクラッチという革命的機構を採用します。停止と発進も含めた全てのシフトチェンジでクラッチ操作不要にするこの新機構は軽二輪にも装備可能で、渋滞の多い日本では中高年ユーザー待望の変速機です。

これではますますクラッチ操作の重いスズキから中高年ユーザーは去っていくことになります。もしホンダがEクラッチ装備の新型250アドベンチャーを投入すれば、Vストは一気に劣勢になることでしょう。

そういう危機感からでしょうかスズキはアドベンチャーカテゴリーにGSX-S1000GXを投入しましたが、やはり如何せんヨーロッパ向けの車両をそのまま日本に投入しただけで、スズキ初の電子サスに200万円かけられるリッチユーザー層は限られます。

しかし、スズキの良いところはこの状況下で元祖アドベンチャーのVスト650に最後のカラーリング変更を行ったことです。日本市場を配慮して1050や800にスタンダードを出したのは採算度外視で日本企業として日本人ユーザーを大切にする姿勢の現れですが、そのスズキだからこそ、650にも安価で良心的なファイナルを用意できたと言えます。

ラストを飾るにふさわしい美しいカラーリングかと思います。価格も据え置きで3月まではETCやグリップヒーターが無料になります。味わいある国産Vツインエンジン車を新車で買える最後の機会となります。800や1050とは異なり燃料はレギュラー、スポークホイールながらチューブレス、平均的日本人には安心なシート高。高速道路渋滞で役立つローRPMアシスト。シリーズ中最も日本市場に配慮された機種でした。クルコンやスリッパークラッチもなく、ヘツドライトはハロゲンのままですし、かつての新鮮さを失ってはいますが、おそらく国産アドベンチャーの名機として後々賞賛されるであろうVストローム650は、スズキの新たなレジェンドとなる1台かと思います。なお、ツーリングメインならキャストホイールのスタンダードが合理的で、地味ではあってもラインナップに残っているのもうれしい配慮です。

さて、近所のお店に実車のXTが入りましたので、さっそく見に行きました。

有終の美を飾るに相応しい美しいカラーリングに魅了されました。スタンダードにこの配色がないのは残念ですが、国産アドベンチャーの草分けからは、古くささはあっても、それを上回る実用性の高さがあり、堂々たる威容と迫力ある存在感が漂っていました。

最後までお読みいただきありがとうございました。

追記(2024年4月13日)

中国においてVストローム250のマイナーチェンジが行われ、2024年モデルでついにアシスト&スリッパークラッチ(ASC)が採用されました。同機の有名なオーナー賀曽利隆さんですら、かつてロングツーリングで左手がパンパンに腫れた事があったほど、同機の硬いクラッチがようやく改善されます。デビュー7年にしてシニアユーザー待望の朗報!

と、したいところですが、このASC装備Vスト250は日本には入って来ませんでした。もちろん同装備のGSX250Rも日本には入って来ませんでした。ただ、後者は中国同様にヘッドライトのLED化だけは実施されました。この措置は販売店に聞いたところでは、元々両機種は単なる価格改定のみで春に2万円の価格引き上げを予定していたので、さらにASC代を上乗せするのは販売上好ましくないとのメーカー判断でASC装備は見送られたようです。しかし中国工場のラインに日本仕様だけ別過程なのは、コスト面で疑問ですから前モデル生産ストック分で販売終了するかもしれません。ただし、かつての噂では2気筒Vスト250にはインド移管説が流布されていた時期がありました。125ccスクーターが全てインド移管しているのがその根拠です。もし、その噂が本当なら2気筒250はフルモデルチェンジでスタイルが一新され、当然ながらASCも標準装備され、インド生産の安い価格で再登場となる可能性があります。

 因みに日本円と中国人民元の為替レートは10年前よりも60パーセントも円安、日本円とインドルピーの為替レートは10年前より10パーセントの円安で済んでいます。しかも中国の賃金水準はこの10年間でほぼ年率10パーセントで上昇していますが、インドの賃金水準は中国の4分の1で、賃金上昇率は半分以下。もはや日本企業の中国生産は何らメリットはなく、4輪で確固たる地位を築いたインドへの2輪移管はスズキにとっては至極当然の事なのだと思います。

 なお、当記事のVスト650も生産終了がそう先ではないとの噂もありますから、生産ストック分をもってカタログ落ちとなる事が予想されます。名車Vストローム650、いよいよ貴重なファイナルカラーということになります。